はじめに
2023年10月にスタートしたインボイス制度(適格請求書等保存方式)について、2026年度税制改正において非常に大きな見直しが行われました。
今回の改正は、特に小規模法人や免税事業者との取引が多い事業者にとって大きな転換期となります。これまでの負担軽減措置が終了、あるいは内容が刷新されるため、事業者はこれまで以上に正確なスケジュール管理と実務対応が求められます。
本記事では、2026年10月1日を境に激変する重要ポイントと、今すぐ講じるべき具体的な実務対策を分かりやすく解説します。
変更点①:法人の「2割特例」は延長なしで完全終了
インボイス登録によって免税事業者から課税事業者になった小規模事業者の税負担を軽減するため、納税額を「売上税額の2割」とする経過措置(2割特例)が設けられていました。しかし、今回の改正により法人と個人事業主で対応が分かれることになりました。
法人の適用期限は「2026年9月30日を含む課税期間」まで
法人の2割特例は、当初の予定通り延長されず、「2026年9月30日までの日の属する課税期間」をもって完全に終了します。
例えば、12月決算法人であれば、2026年12月期(2026年1月1日〜12月31日) の申告が、2割特例を適用できる最後のチャンスとなります。
個人事業者には新たな「3割特例」が創設。ただし法人は対象外!
今回の改正では、個人事業者に対してのみ、2割特例の終了後も段階的に負担をならすため、 納税額を売上税額の3割とする「3割特例」が新たに2年間創設されました(2027年分・2028年分の申告が対象)。
ここで最も注意すべきは、この新たな「3割特例」は法人は一切対象外という点です。どんなに規模の小さい法人であっても、2割特例の期限を迎えた後は、原則的な課税方式(一般課税または簡易課税)へ完全に移行しなければなりません。
変更点②:免税事業者等からの仕入れに係る「経過措置」の大幅見直し
インボイスを発行できない免税事業者や消費者等からの仕入れ(外注費など)であっても、一定割合を仕入税額控除として差し引くことができる「経過措置」についても、当初の縮小スケジュールが大幅に見直されました。
この変更点について、取引の「買い手(発注側)」と「売り手(受注側)」それぞれの視点から解説します。
①【買い手側の影響】仕入税額控除の引き上げとスケジュール変更
免税事業者から仕入れや外注を行っている事業者(買い手)側にとって、当初予定されていた「50%控除への激減」は回避され、控除割合の引き上げと期間延長が行われました。
新しいスケジュールと控除可能割合は以下のとおりです。
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期間 |
改正前(当初予定) |
改正後(新スケジュール) |
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2026年9月30日まで |
80%控除 |
80%控除 |
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2026年10月1日〜2028年9月30日(2年間) |
50%控除 |
70%控除(引き上げ&延長) |
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2028年10月1日〜2030年9月30日(2年間) |
0%(控除なし) |
50%控除 |
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2030年10月1日〜2031年9月30日(1年間) |
0%(控除なし) |
30%控除 |
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2031年10月1日以降 |
0%(控除なし) |
0%(控除なし) |
当初の「一気に50%へ下がる」というシナリオに比べれば、2026年10月以降も「70%控除」が維持されるため、負担は幾分緩和されました。
しかし、現行の「80%控除」から「70%控除」へ下がることに変わりはありません。
免税事業者への外注費や仕入高が多い法人にとっては、2026年10月1日を境に実質的な増税(消費税負担増・キャッシュアウト増)となります。
⚠️ 【重要】特定の未登録先からの仕入れに「年間1億円」の足切りラインが導入
今回の経過措置の見直しに伴い、買い手側の租税回避・乱用防止策として、「控除限度額(足切りライン)」が大幅に引き下げられました。
特定のインボイス未登録(免税事業者等)の1社・1人からの課税仕入れの合計額(税込)が、その年またはその事業年度で「1億円」(改正前:10億円)を超える場合、その超過部分の課税仕入れについては経過措置の適用が一切認められなくなります(超えた分は控除割合が0%になります)。 この上限額の引き下げは、2026年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
「1億円」への引き下げによって、特定の個人外注先へ多くの発注を行っている建設業、IT業界、エンターテインメント業界などでは、該当するリスクが高まるでしょう。
②【売り手(免税事業者)側の影響】インボイス未登録を維持する場合
発注元である事業者(買い手)側の控除割合が減る(8割から7割へ、1億円超は0%へ)ということは、買い手側が負担する消費税がその分増えることを意味します。そのため、売り手側が免税事業者のままでいると、買い手側から「消費税の減少分の値引き」を求められたり、インボイス登録を強く促されたりするリスクは依然として高いままです。
ただし、今回の改正で控除割合が70%に踏みとどまったため、2028年9月までは「免税事業者だから」という理由だけで極端な取引停止にまで発展するケースは、当初の予想よりは少なくなると見込まれています。
事業者が今すぐ講じるべき「実務対策」
「法人の2割特例の完全終了」と「経過措置の変更(80%→70%・1億円制限)」を見据え、事業者が今すぐ取り組むべき3つの実務対策です。
対策①:簡易課税制度への移行検討と届出書の提出
2割特例が終了する法人や、2027年以降に原則課税への移行を避けた方が有利な個人事業主は 、原則課税のままでいくか、それとも「簡易課税制度」を選択するかを早急にシミュレーションする必要があります。
通常、簡易課税を適用するためには「適用したい課税期間の初日の前日まで」に届出書を提出する必要がありますが、2割特例の適用を受けた翌課税期間であれば、その課税期間の申告期限までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、その課税期間から簡易課税の適用が認められるという円滑な移行措置が設けられています。
基準期間(2年前)の課税売上高が5,000万円以下の事業者様は、自社の業種(みなし仕入率)を考慮し、どちらが有利かを前もって試算しておきましょう。
対策②:免税事業者との取引方針の見直しとコスト試算
自社の外注先や仕入先にどれくらい免税事業者がいるかを改めて棚卸しします。
2026年10月以降、それらの取引から発生する仕入税額控除が70%に減少した場合、自社の納税額がいくら増加するのか、また「年間1億円」の足切りラインに引っかかる特定の取引先がないかを試算してください 。
その上で、取引先へインボイス登録予定の有無を確認したり、価格設定の見直しについて対話を進めたりすることが推奨されます。
対策③:会計ソフト・経理システムの設定変更
実務的な盲点となりやすいのがシステム対応です。
2026年10月1日以降の取引については、免税事業者からの仕入れに対する仕入税額控除の計算をシステム上で「80%自動計算」から「70%自動計算」へと切り替える必要があります。自社で利用している会計ソフトや経費精算システムが、このスケジュール変更に自動対応するのか、あるいは手動でのマスタ設定変更が必要なのかを、ベンダーに確認しておきましょう。
まとめ
2026年度税制改正により、インボイス制度の負担軽減措置は期間が延長されたものの、「法人は個人事業主よりも救済措置(特例)の終了が早い」という厳しい現実が浮き彫りになりました。
直前になって慌てて高額な納税に直面したり、資金繰りを悪化させたりしないよう、今から有利不利のシミュレーションを進め、万全の準備を整えておきましょう。
免責事項:
本記事の内容は、2026年5月現在の税法および閣議決定・通達等に基づき作成しています。今後のさらなる通達の改正により、実務上の取扱いが変更される可能性があります。個別の具体的な税務判断や適用の可否については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。