「相続税対策として借入をして賃貸マンションを購入する」「所有地に駆け込みでアパートを建てる」——。これまで資産家やオーナー経営者の間で“王道”とされてきた不動産を活用した相続税の節税対策に、過去最大級のルール変更が行われます。
2026年度税制改正において、「貸付用不動産の評価方法の見直し(通称:5年ルール)」が盛り込まれたためです。
2027年1月1日以降に発生する相続や贈与では、取得・新築から5年以内の貸付用不動産について、税金上の価値(相続税評価額)が「路線価等」から「取得価額ベース(取得価額を基礎とした評価)」へ引き上げられることになります。
今回の税制改正について、そもそもなぜ不動産で節税できるのかという基礎知識から、今回の改正内容、地主様向けの経過措置、そして今すぐ打つべき実務対策まで、わかりやすく解説します。
改正点を見る前に、まず「不動産を活用した相続税対策の根本的な仕組み」をおさらいしておきましょう。
相続税は、被相続人(亡くなった方)が遺した財産の「相続税評価額(税務上の評価額)」の合計額に対して課税されます。現預金と不動産では、この評価額の計算方法が大きく異なります。
さらに、その不動産を第三者に貸し出して賃貸事業を行っている場合、「貸家建付地」や「貸家」として評価され、さらなる評価減(控除)が認められます。
※1 路線価(ろせんか)・・・道路に面する標準的な宅地1平方メートルあたりの評価額。公示地価(時価の目安)の約8割を目安に国税庁が設定します。地域によっては路線価ではなく倍率方式で評価する地域もあります。
※2 固定資産税評価額・・・各市町村が固定資産税を計算するために決める建物の評価額。実際の建築費・購入価格の5〜7割程度になるのが一般的です。
これまでは、亡くなる直前に現金から不動産へ組み替える(あるいは借入をして賃貸物件を建てる)だけで、税金上の資産価値を大幅に圧縮できたのです。
今回の改正の背景には、「時価」と「相続税評価額」との大きな乖離を利用した過度な節税対策が横行していたことがあります。
実際、21億円で購入した賃貸マンションの評価額が約4.2億円(約80%減)まで圧縮され、借入金と組み合わせることで相続税を著しく免れるようなケースが問題視されていました。
従来、税務当局はこうした極端な節税に対し、個別に「時価」へ評価を引き直して課税する対応をとっており、いわゆる「総則6項事件」の最高裁判決(2022年4月19日)でも国の主張が認められました。
しかし、こうした個別の指摘は「どのようなケースが税務調査でアウトになるのか」という判断基準があいまいで、納税者や専門家にとって事前に予測することが難しいという課題がありました。
そこで今回の税制改正により、個別の対応に頼るのではなく、「取得から5年以内」という誰にでも判断できる明確で客観的なルールが新設されることになったのです。
2027年1月からスタートする「5年ルール」の概要は以下の通りです。
被相続人や贈与者が、相続開始(または贈与)の前5年以内に対価を払って取得・新築した一定の貸付用不動産(賃貸マンション、アパート、貸ビル、貸店舗等)が対象です。
※売買による購入だけでなく、ご自身で新築した場合も含まれます。
※相続や贈与など「対価を伴わない取引」で引き継いだ物件は対象外です。
従来の路線価や固定資産税評価額ベースではなく、「課税時期における通常の取引価額」で評価します。具体的計算としては、課税上の弊害がない限り「取得価額を基に地価変動等を考慮して計算した価額の100分の80(80%相当額)」で評価することが認められます 。
1口100万円単位等で販売される「不動産小口化商品(不動産特定共同事業契約や信託受益権等)」はさらに厳しく見直されました。5年以内かどうかにかかわらず、取得時期を問わず一律で「通常の取引価額(事業者等の示す買取価格や売買実例価額等)」で評価されます。小口化商品を用いた節税スキームは事実上封じられた形となります。
2027年1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得する財産の評価から適用されます。
改正により税負担がどれほど変化するのか、シミュレーションで確認してみましょう。
【前提条件】
| 項目 | 改正前(現行ルール) | 改正後(5年ルール適用) | 差額・インパクト |
| 評価基準 | 路線価・固定資産税評価額+貸付不動産の評価減 | 取得価額の80%相当額 | - |
| 相続税評価額 | 約5,000万円(時価の約5割) | 約8,000万円(時価の約8割) | +3,000万円 |
| 推定相続税額 (実効税率40%で計算) |
約2,000万円 (5,000万円×40%) |
約3,200万円 |
+1,200万円の増税! |
相続発生が「取得から5年以内」というだけで、相続税負担額が1,200万円も増額する計算になります。直前の駆け込み購入は、かえって資金繰りを圧迫するリスクが高まります。
※相続税評価額の割合はシミュレーションのためのイメージであり、物件等により異なります。
今回の改正には、5年以上前から土地を所有している土地所有者にとって極めて重要な「経過措置(例外規定)」が用意されています。
現時点で公表されている改正内容では、以下の条件を満たす場合は、建築後5年以内に相続が発生しても従来通りの路線価・固定資産税評価額(貸家建付地・貸家評価)が適用されます。
遊休地や駐車場などにアパート建築等を検討されている土地所有者にとっては、通達が発遣される前の「今」が具体的な意思決定を行うタイミングと言えます。
通達がいつ公表されるかは現時点では未定です。
そのため、不動産活用を検討される際は、公表を待たずに早急に専門家とスケジュールのシミュレーションを行うことが極めて重要です。
Q1.2024年や2025年にすでに購入した賃貸物件も、2027年以降に相続が発生したら5年ルールの対象になりますか?
A.はい、対象になります。本改正は「2027年1月1日以後に開始する相続・贈与」から適用されます。物件の「購入日」が施行前であっても、相続発生日時点で「取得から5年以内」であれば新ルール(取得価額の80%評価等)が適用されます。
Q2.取得から5年が経過すれば、従来の路線価評価(節税効果)に戻りますか?
A.原則として従来通りの評価に戻ります。5年ルールは過度な短期駆け込み取得を抑制するための規定です。取得・新築から5年を超えて保有し続ければ、従来通り路線価や固定資産税評価額をベースとした貸家建付地・貸家の評価減が適用されます。
2026年度税制改正による「貸付用不動産の5年ルール」は、これまでの相続対策の常識を大きく変える転換点です。
「不動産を購入すれば手軽に節税できる」時代は終わり、これからは「5年・10年先を見据えた計画的な資産承継」を行っているかどうかが、ご家族に残せる財産額を大きく左右します。
相続税対策は一人ひとりの資産状況によって最適解が異なります。今回の改正を機に、5年、10年先を見据えた計画的な資産承継について、ご家族や専門家と共に改めてシミュレーションを行ってみてはいかがでしょうか。
【免責事項】
本記事は2026年7月時点の公表資料(令和8年度税制改正大綱等)および法令・通達に基づき作成しております。今後公表される関係法令や評価通達の詳細、国会での審議状況等により、内容が変更・細分化される可能性があります。具体的な税務申告や個別の資産対策の実行にあたっては、必ず税理士等の専門家へご相談のうえ、最終的な判断を行ってください。
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