日本年金機構の最新資料「令和6年度業務実績報告書」に基づき、社会保険の基礎知識(労働保険との違い等)から、社会保険料について、年金事務所による調査で指摘される潜在的負債のリスクを、事例を交えてご説明します。
「うちは全員加入させているから健全だ」と確信している経営者でも、年金事務所の調査で百万円単位の「収納未済(しゅうのうみさい)」を指摘され、キャッシュフローの危機に陥るケースがあります 。 現在の調査は、単に「加入しているか」だけでなく、「給与や手当の変動を、正しい等級で報告しているか」をデジタルで厳密に突き合わせています。
中小企業の経営者にとって、社会保険の正しく漏れのない運用が、いかに会社を守る鍵となるかを解説します。
「社会保険」という言葉は、広義には労働保険と社会保険(狭義)の双方を含みます。しかし、一般的には、狭義の意味で使用されることが多く誤解が多いので、まずはこちらを整理します。
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分類 |
制度名 |
費用の負担 |
主な目的 |
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社会保険 (広義) |
社会保険 (狭義) |
健康保険 |
会社と本人で折半 |
病気・怪我・要介護・老後への備え |
労働保険 |
労災保険 |
会社が全額負担 |
仕事中の事故への補償 |
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雇用保険 |
会社と本人で分担 |
失業・育休時の手当等 |
参考:日本年金機構 令和6年度業務実績報告書
これらの保険は、種類によって負担割合や目的が異なります。認識を誤ると給与からの保険料の控除ミス、届け出漏れにつながりますのでご注意ください。
経営者が特に注意すべきは、金額の大きい「狭義の社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金)」です。こちらの社会保険料は、毎月の「報酬」に基づき、国が定める「標準報酬月額(等級・ランク)」により決定されます。納付は、本人の給与から控除した分と会社負担分を合わせて会社が行います。
最新の報告書(令和6年度分)によると、全国で実施された 120,944 事業所の調査において、是正指導を受けた件数は延べ 97,529 事業所にのぼります。
調査を受けた企業の多くが、何らかの修正と遡及(さかのぼり)徴収を命じられています。指摘内容としては、給与額の届け出ミス(報酬関係)の指摘が多く、未加入の指摘の約2.8倍も発生しています。
出典:日本年金機構「令和6年度 業務実績報告書」p.29より引用
報告書には、「是正リスクが高い」と判定され、優先調査対象として選定される基準が明記されています 。
中小企業の会社で、現実に起こりうる保険料の高額是正の典型例を計算式で見てみましょう。
社会保険では、通勤手当もすべて「報酬」に含まれます。これを除外して届け出ていると、調査で最大2年分遡及されます。
【計算シミュレーション】
25人の従業員全員に通勤手当を支給しているが、保険料の算定に含めていなかった場合。
(※手当を正しく含めると全員のランクが1つ上がり、月額保険料が本人・会社合計で1人あたり6,000円増えると仮定)
6,000円(1人あたりの月額増) × 25人 × 24ヶ月(遡及期間)=3,600,000円
調査で指摘されると、この360万円を一括納付の可能性があります。
固定的な賃金が変動し、2等級以上変わった際の手続き漏れです。
【計算シミュレーション】
給与を40万円から50万円に引き上げたが、届け出(月変)を忘れていた場合。
(※会社負担分+本人負担分を合わせた月額保険料の差額が約3万円と仮定)
30,000円(月額差額) × 24ヶ月(遡及期間) = 720,000円
たった1人の手続き漏れでも、72万円の支出の可能性があります。
調査で支払い漏れ(収納未済)が発覚した場合、会社は本人負担分も含めた「全額」を即座に納付する義務があります。
トラブルを避けるために、会社が「退職者や在職者の本人負担分まで全額肩代わり」した事例が多くあります。例えば、遡及自己負担分を支払わない退職者に対して、訴訟を起こしてまでの回収を諦めるといったケースです。
現在、日本年金機構は国税庁の源泉徴収データとシステムを紐付け、給与支払額と保険料の不一致を自動で特定する能力を飛躍的に高めています 。
社会保険制度の適正な運用を維持し、年金事務所の調査による是正指摘や事業主名公表といった不利益を避けるためには、適正な労務管理体制の構築が不可欠です。
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