通勤手当には、税務上、「非課税限度額」が定められており、この上限を超えて支給された分については、通常の給与と同様に所得税が課税されます。
2026年4月、この通勤手当のルールが42年ぶりに大きく変わりました。今回の改正は、ガソリン代高騰や物価高といった社会情勢を受けた「実質的な賃上げ」を後押しする内容です。
特に注目すべきは、これまで「自腹」が当然だった駐車場代が、一定の条件で非課税枠に含められるようになった点です。
今回の改正内容を正確に把握し、関連規程を整備することで、企業は従業員の手取り増加を実現することができます。具体的な改正点を確認していきましょう。
今回の改正で最も実務に影響を与えるのが、駐車場・駐輪場料金の非課税枠の新設です。これまで、マイカー通勤者が負担する駐車場代を会社が補助した場合、その補助額は原則として「給与」として課税対象になっていました。
非課税の対象となるのは、通勤ルート上で必要な以下の駐車場または駐輪場に限られます。
勤務先の周辺
通勤で利用する交通機関の駅や停留所、その他の施設(フェリー乗り場や空港など)の周辺
一方で、「自宅の近く」にある駐車場代は原則として対象外となる点に注意が必要です。あくまで通勤ルート上で必要な費用であることが条件です。
自動車や自転車などを使用する通勤者が対象となり、片道2km未満の通勤者に対する非課税措置は適用されません。
片道2km未満の通勤者が駐車場や駐輪場を利用してその料金を負担していたとしても、加算措置の対象にはならず、全額が課税対象となります。
従来の「距離に応じた非課税限度額」に、1ヶ月あたり5,000円を上限として駐車場代を上乗せできます。自転車の駐輪場代も、この「5,000円枠」の対象に含まれます。
例えば、片道30kmのマイカー通勤者の場合、距離別の非課税限度額は19,700円ですが、もし駅前の駐車場を月4,000円で利用していれば、合計23,700円(19,700円+4,000円)まで非課税で支給できるようになります。
駐車場代と並ぶもう一つの柱が、長距離通勤者の非課税限度額の引き上げです。これまでは片道55km以上が一律の区分でしたが、今回の改正で65km以上の区分が細分化されました。
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片道の通勤距離 |
非課税限度額(月額)
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|---|---|
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65km以上 75km未満 |
45,700円 |
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75km以上 85km未満 |
52,700円 |
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85km以上 95km未満 |
59,600円 |
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95km以上 |
66,400円 |
※これに駐車場代(最大5,000円)を別途加算することが可能です。
「自宅から駅までは車、そこから電車で通勤」という併用者の場合も、駐車場代の加算が認められます。非課税限度額は以下の3つの合計額で算出します。
ただし、全体の上限は「月15万円」までです。新幹線通勤などをしていて、既に15万円の上限に達している方の場合は、駐車場代を追加しても非課税メリットは受けられませんのでご注意ください。
中小企業では、会社が近隣の駐車場を契約し、従業員に利用させているケースも多いでしょう。この場合の扱いはどうなるのでしょうか。
結論から申し上げますと、会社が駐車場を契約して料金を負担している場合も、今回の改正の考え方が適用されます。実態として「駐車場代相当の通勤手当」を支給しているのと変わらないと判断されるためです。
会社負担額が月額5,000円を超えている場合は、5,000円までは非課税、それを超える部分は給与として課税対象とするのが正しい処理となります。「うちは通勤手当として現金で渡していないから関係ない」と放置せず、実際の負担額を確認しておく必要があります。
せっかくの非課税枠も、運用がずさんだと税務調査で「根拠がない」と否認され、過去に遡って所得税を徴収されるリスクがあります。
今回の改正に関する国税庁のQ&Aでは、従業員から領収書等の提示を受ける「法令上の義務はない」とされています。しかし、これは「何も確認しなくてよい」という意味ではありません。適正な非課税額を算出するためには、契約書・利用明細・料金表などで実際の金額を確認し、そのコピーを保管しておくことが実務上は不可欠です。
制度を導入・変更する際は、就業規則や賃金規程にしっかり明記しましょう。
といったルールを整備しておくことで、税務署に対しても「恣意的な運用ではない」と説明できるようになります。
A. 原則として「2026年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」から適用されます。例えば、4月10日支給の給与に含まれる通勤手当であれば、新ルールで計算します。ただし、4月以前の未払い分を4月以降に遡って支給する場合は旧ルールのままとなりますので注意してください。
A. 残念ながら非課税にはなりません。通勤距離が片道2km未満の場合、交通用具の使用による非課税措置そのものが対象外とされているためです。駐輪場代を支給した場合は全額が給与課税となります。
A. 1ヶ月間に実際に支払った合計額を使用するか、あるいは「1回の料金 × 出勤日数」などの合理的な方法で算出した金額を1ヶ月分の料金として扱うことができます。回数券を利用している場合も、同様の按分計算が認められます。
今回の通勤手当の改正、特に駐車場代の非課税化は、車社会の地方企業や、駅から少し離れた場所にオフィスがある会社にとって、大きな追い風となります。
「月5,000円」と聞くと小さく感じるかもしれませんが、年間にすれば1人あたり6万円の非課税枠です。従業員の「実質的な手取り」を増やすことは、採用力や定着率の向上に直結する戦略的な投資となります。
この改正を最大限に活用するため、まずは以下の3点について速やかに確認と対応を始めてください。
免責事項:
本記事の内容は2026年4月現在の法令・公表資料に基づいています。今後の法改正や通達により、取り扱いが変更される可能性があります。最終的な税務判断や個別の事案への適用については、必ず税理士にご相談ください。